著者:David Haber、a16z パートナー
翻訳:深潮 TechFlow
深潮ガイド:a16z の本分析は、AI の商業化における最も重要な転換点を直撃している。それは、時間単位のコスト削減から成果ベースの報酬への移行だ。SaaS の実務者や投資家なら、この記事は、なぜ次世代の AI ユニコーンがもはや「シート料」を売らず、顧客の収益成長の一部を直接手にするのかを説明してくれる。

従来、ネットワーク事業者に電話して回線障害を申告するのは、だいたいこんな感じだった。まずロボット音声があなたを「お客様」と呼び、電話メニューで何分も振り回す。「技術サポートは 3 を、ブロードバンドは 2 を、その他の問題は 4 を押してください」。その後、保留音の中に放置され、自分が忘れ去られたように感じる。ようやくオペレーターが出たかと思えば、名前、アカウント番号、問題の内容を尋ねられる。ルーターの再起動で解決しなければ、また待たされ、別のオペレーターに最初からすべてを説明し直し、ようやく訪問修理の予約にたどり着く。
AI はすでにこうしたカスタマーサービスの現場を変えつつある。ロボット音声や何人ものオペレーターと格闘する代わりに、AI エージェントが今では即座に電話に出られる。アカウントを確認し、あなたの地域で他にも影響を受けているユーザーがいないか調べ、簡単な問題ならその場で解決し、そうでなければ修理担当者を手配する。「現在すべてのオペレーターが電話中です」も保留音も、もうない。つい最近まで、これがほぼ技術の上限だった。
しかし今、新たな能力によって、AI エージェントはより長い時間軸にわたって手がかりを追跡し、タスクを実行できるようになっている。私たちは、これによって AI 企業が単発の顧客対応を超え、数週間、場合によっては数カ月に及ぶ複雑なカスタマージャーニーをどう扱うかを根本から考え直せると確信している。AI は保険の顧客を最初の電話から最終的な保険金支払いまで導き、住宅ローンの借り手を事前承認から引き渡しまで導き、企業の営業リードを最初のデモから契約まで導く。これは顧客により良い結果をもたらすだけでなく、AI ベンダーがコスト削減だけでなく、収益成長に応じて報酬を得ることを可能にする。
価値はリレーのゴール地点にしか現れない
顧客に価値を生み出すまでに多くのステップを要し、数週間から数カ月に及ぶビジネスは数多く存在する。伝統的な原告側法律事務所の案件準備プロセスを例に取ろう。見込み案件は通常、電話のリードとして入ってくる。受付担当者が重要な情報を集め、弁護士に渡してこの顧客を引き受けるかどうかを判断する。事務所が案件を契約すると、調査と証拠収集が始まる。パラリーガルは警察の報告書を取り寄せ、何とか証人に連絡を取ろうとし、被告に証拠保全通知を送って証拠を保全する一方、顧客には進捗を継続的に伝える。その後、事務所は顧客の治療が終わるのを待ち、医療経過のタイムラインを作成し、資料を弁護士に渡して請求書を完成させる。
このプロセスこそ、私たちがこれまで「リレー」と呼んできたものだ。長い旅路であり、バトンの受け渡しのたびに離脱や価値の毀損のリスクがある。見込み客は通常、複数の人身傷害法律事務所に電話し、最も早く返信してきた事務所と契約することが多い。だから、顧客が留守番電話にしかつながらなかったり、資格審査が遅すぎたりすれば、案件はファネルから漏れ落ちる。契約後、証拠収集は複数の並行する手がかりを伴うが、事務所は 4 回電話しても出ない相手に 5 回目の電話をかける忍耐力を持つとは限らない。また、人的制約によって、事務所はすべての証拠を詳細に精査できないこともある。特に、一見ありふれた、請求額の大きくない案件ではなおさらだ。医師の記録を注意深く読めば脳損傷の兆候を発見でき、和解金額を大幅に引き上げられたかもしれないのに、事務所は相手の最初の提示額をそのまま受け入れてしまうかもしれない。最後に、案件は何カ月も長引き、多数の関係者が関与し、情報は文書・人・システムの間に散在する。これでは、事務所が各顧客に対して全体像を維持することはほぼ不可能だ。その結果、重要な請求項目が請求書に書き込まれなかったり、治療の空白期間が誰にも説明されなかったりして、最終的に和解金額が押し下げられる。

長期間稼働エージェントの機会
つい最近まで、AI エージェントは主に境界の明確なタスクだけを処理していた。「このフォローアップメールを送って」「あの電話を要約して」「この文書を作成して」、そして範囲の非常に狭いインタラクションだ。例えば、カスタマーサービスが AI の初期導入に適した優れた場となったのは、問題空間が明確に定義され、高い信頼性を実現でき、同時に企業固有のポリシーに合わせてカスタマイズできるからだ。インタラクションは短く、結果は検証可能で、AI エージェントが処理できないエッジケースに遭遇しても、既存のカスタマーサービスチームが通常は残っていて、エスカレーション対応ができる。
今や、長期間稼働エージェントは数十のステップ、複数のモダリティ、そしてより長い時間軸にわたって目標を追求できる。これにより、リレーを最初から最後まで走り切ることが可能になった。原告側法律事務所の例では、最初の受付電話から、長期間稼働エージェントに案件を割り当て、顧客の賠償額の最大化を目標にできる。エージェントは必要に応じて案件の背景情報を保存・検索する。イベントや締め切りに応じて自動的に起動し、証人への連絡、顧客への更新、電話・メール・SMS を通じた弁護士とのコミュニケーションのために、サブエージェントを自発的に派遣する。そして発見事項を統合し、次の行動を計画し、レビュー用の文書を起草し、案件を可能な限り良い結果へと導く。顧客横断のレベルでは、継続的に学習し、各案件から生まれるデータが次の案件を今よりもうまく処理する助けとなる。
エージェントは、今日のリレーで観察される主な価値毀損ポイントを解決する。旅路の起点では、案件評価が遅いために顧客が離脱することはもうない。エージェントは何時でも、何曜日でもオンラインで、案件評価をほぼ即座に完了できるからだ。証拠収集は人的制約に縛られなくなる。案件エージェントはいつでも追加のサブエージェントを立ち上げ、5 回目、10 回目、20 回目の電話をかけられるからだ。エージェントはほぼ無限にスケールできるため、一見ありふれた案件でも徹底的に処理され、すべての証拠が注意深く精査され、見落とされていたかもしれない脳損傷の手がかりが明らかになる。最後に、エージェントは証人の通話録音から警察の報告書、医療記録に至るまで、案件の完全な記録を保持し、いかなる情報も失われないようにする。

成果ベースの課金
こうした穴を塞ぐことに加えて、カスタマージャーニー全体を所有することは、エージェントベンダーのビジネスモデルをも変える。エージェントがより高品質かつ高速に成果を届けられるようになると、それはコスト削減だけでなく、顧客に収益成長をもたらす。さらに重要なのは、影響が観察可能で、エージェントに帰属可能であるため、ベンダーは成果物や成果に基づいて価格を設定し、自らが生み出した増分価値を分かち合えることだ。原告側法律事務所の例では、個々の案件が自然な作業単位であり、最終成果である和解金額の価値は明確に識別できる。加えて、エージェントが最終的な成果物に占める割合が大きくなるにつれて、成果をエージェントに関連付けやすくなる。ベンダーはそれによって収益成長を分かち合い、従来のコスト削減だけでは到達できなかった契約金額を実現できる。
確かに、成果ベースの価格設定への移行に摩擦がないわけではない。原告側弁護士業界では、ほとんどの州で非弁護士が弁護士報酬を分け合うことを禁じているため、価格設定は和解金額と整合させつつも、そこから直接分け前を取ることはできない。他の業界では、ベンダーは調達チームの反対に直面するかもしれない。彼らにはまだ成果ベースで契約した前例がないからだ。そして、エージェントが成果の完全な所有に近づいたとしても、初期には帰属をめぐる論争が起こり得る。したがって、長期間稼働するエージェントの導入を成功させることは、技術的な挑戦であると同時に、ビジネス上の挑戦でもある。
とはいえ、高価値なカスタマージャーニーで成果ベースの課金を行うことは、新しいアイデアではない。
AI ネイティブ版 Red Ventures の根拠
Red Ventures(RV)は優れた歴史的事例だ。RV は Ric Elias と Dan Feldstein によって創業され、長期の消費者契約向けにデジタル化されたエンドツーエンドのアウトソーシング営業運営を先駆的に提供した。保険を例に取ると、RV は顧客がこれらの商品を検索する際に情報を収集し(homeinsurance.com などのサイトを所有することで)、顧客に自ら連絡を取り、引受オプションを案内し、最終的に保険契約を成立させる。このジャーニーを完全に所有しているため、RV は保険契約が 1 件成立するごとに保険会社から報酬を得る。このモデルはかつて極めて効果的だった。S\&P Global のデータによると、RV は 2022 年に約 14 億ドルの売上で約 3.7 億ドルの EBITDA を生み出した。
今日、このモデルは構造的な脅威に直面しているようだ。ファネルの最上部では、消費者が商品を発見する方法が変わりつつある。彼らはもはや Google 検索や比較サイトに頼って商品を探し、比較するのではなく、Meta の Muse や Instinct などのパーソナルエージェントに直接商品の推奨を尋ねることができる。これにより、かつて探索型サイトを所有することの価値は低下した。さらに下流では、何百人もの人々が線形のファネルを運営するのではなく、長期間稼働するエージェントがかつてよりはるかに複雑なジャーニーを処理できる。エージェントは商品横断、コミュニケーション手段横断で並行して働き、あらゆる言語をサポートして大規模に稼働し、無限の粘り強さを持つ。RV の EBITDA は 2025 年に約 1.6 億ドルへ低下すると予想されており、その理由は顧客離れと広告支出の軟化だ。これはすでにこのモデルの脆弱性を予備的に示しており、AI はさらに業界全体を変えていくことになる。
3 つの市場参入経路
長期間稼働エージェントを市場に投入する方法はいくつかある。
(1) プラットフォームを売る:この方法では、ベンダーは長期間稼働エージェントをソフトウェアとして販売し、企業が既存の業務の中で利用できるようにする。原告側法律事務所のケースで、エージェントが既存チームとそのワークフローに統合されるのが良い例だ。プラットフォームを売ることは、価格を固定するための比較可能なソフトウェアやアウトソーシング契約が通常存在しないため、収益の上振れ余地をもたらす。しかし、新しい予算項目を作る必要があるため販売サイクルが長くなり、またエージェントが企業の複数の部門とやり取りする場合、成果をエージェントに明確に帰属させることが難しい。
(2) サービスを売る:ここではベンダーが、すでにアウトソーシングされているサービスを引き継ぎ、期待される成果をより効率的に届ける。Red Ventures が保険会社のために顧客獲得ジャーニー全体を所有したのと同じだ。この方法は販売サイクルを短縮する。買い手の ROI 計算がシンプルで、BPO の予算項目がすでに存在するからだ。しかし、AI 登場以前の既存の価格モデルは、長期間稼働エージェントが実際に届けられる価値を反映していない可能性があり、また今日の高価値なジャーニーの多くは企業内部で運営されているため、この方法の適用範囲は限られる。
(3) フルスタック参入:フルスタックとは垂直統合を意味し、AI ネイティブのプレイヤーになることだ。例えば、長期間稼働エージェントを債権回収会社に売るのではなく、自ら債権ポートフォリオを買い取り、自ら回収する。そうすれば、AI がもたらすあらゆる上振れを完全に取り込み、帰属問題を解決できる。しかし、これはライセンスやコンプライアンスといったサービス要素を自ら担うことも意味し、それらは実際のカスタマージャーニーの外側にあり、注意散漫と運用の複雑さを増す。

どの方法が勝つかを判断するのはまだ時期尚早だが、長期間稼働エージェントが大規模なリレーで勝利し、AI のアドレッサブル市場を労働力予算の一部から収益の一部へと拡大することは確信している。原告側の案件準備は一例にすぎず、エージェントは住宅ローンの実行、保険金請求処理、複雑な企業営業、その他無数の場面など、他の高価値なジャーニーでも成果を推進すると予想している。この機会を捉えているなら、ぜひ話を聞かせてほしい!



