執筆:David Christopher、Bankless
翻訳:Chopper、Foresight News
推論(インファレンス)市場は、暗号資産とAIを組み合わせた最も明確な実用化の方向性の一つとなっており、プロジェクト側はオンチェーン市場を通じてAIモデルの呼び出しに伴う参入障壁とコストを大幅に引き下げている。
こうした市場の中核的なモデルは、大半がAPI呼び出し枠を割引価格で再販するものや遊休の推論計算力を提供するもので、一部のプロジェクトは需要側が独立系の計算力サービス提供者と直接マッチングできるネットワークを構築している。
この新興セクターには3つの代表的な市場がある。Robinhood Chainに展開するOrbio、そしてBase上に展開するSurplus IntelligenceとAntseedだ。3者は低価格の推論サービスを提供できる点では共通しているが、サービスの位置づけ、ターゲットユーザー、トークンエコノミクスの設計において明らかな違いがある。以下、この3プロジェクトを横並びで比較する。
Orbio
Orbioが構築する推論市場の中心的サービス対象はAIエージェントだ。プロジェクトは当初、保有者にOpenRouterの枠を配布するだけのトークンだったが、今では数百種類のAIモデルの呼び出しに対応し、多くのモデルが大幅な割引価格で利用できる完全なプロトコルへと発展している。同時にLaunchpadも備えており、開発者はここでエージェントを展開し、ORBIOとペアで取引されるトークンを発行できる。
エージェントの利用ニーズに適合するため、OrbioはPhalaとNEAR AIが提供するプライバシー計算機能を組み込んだ。最近ではMoshとも提携し、Moshのツールエコシステムに接続することで、新たなエージェントトークンがより持続可能なトークン成長メカニズムを構築できるよう支援している。
こうした機能が重なり合うことで、Orbio上で生まれるエージェントはより強い自律性を持つ。推論計算力を呼び出し、資金を管理し、さらにはより多くのオンチェーン行動を自律的にこなすこともできる。
このモデルの中核はCREDITというクレジットで、1枚のCREDITはOrbioのゲートウェイにおいて価値1ドル分の推論枠を表す。エージェントはウォレットの資金でCREDITを購入して焼却し、それと引き換えに計算力を得て、自らの稼働を維持できる。推論枠をトークン化する価値は、エージェントが自ら計算力を調達して自らの存続を確保できる点にあり、しかも多くの場合、割引価格で購入できる。
一例を挙げよう。CREDITの直近の市場価格は約0.47ドルで、エージェントが47ドルで100枚のCREDITを購入すると、手数料を差し引いた後、価値95ドル分の推論枠と交換できる。
割引の原資はORBIOの取引手数料であり、手数料はCREDIT報酬に変換されて配布され、報酬を受け取ったユーザーは二次市場で売却できる。したがって取引量が多ければ多いほど配布できるCREDIT報酬も増える。また、LaunchpadでORBIOとペア取引されるエージェントトークンも独自の流通ループを形成する。
問題は、投機的行為がなければこの状況が持続可能なのかという点だ。プラットフォームは9月以降に関連データを開示しているものの、オンチェーンデータによれば、発行済みのCREDIT枠の大半は今のところ使用されていない。
Surplus Intelligence
3者のうちSurplus Intelligenceのモデルは最も分かりやすく、本質的にはAI計算力のアグリゲーション市場だ。プロジェクトはBaseチェーン上に構築されており、サービス提供者はOpenAI、Anthropic、Venice、OpenRouterなどのモデルインターフェースを出品し、自ら価格を設定でき、市場競争が呼び出し価格を継続的に押し下げる。
推論リクエストを受け取ると、プラットフォームはルーティングルールに従って該当するサービス提供者に割り当てる。購入者はクレジットカードまたはUSDCで支払いができ、エージェントも接続して呼び出すことができる。シンプルで直接的なモデルにより、このプラットフォームは3プロジェクトの中で公開利用量が最も多い。Surplusはプラットフォームがすでに大量の推論リクエストを処理しており、多くの呼び出しコストは1セント未満であることも少なくないと開示している。
低価格に加え、Surplusは競争力を高める新機能も追加しており、最近キーのマスキング(秘匿化)機能を公開した。これを有効にすると、システムはプロンプトをモデル提供者へ転送する前に、APIキーや秘密鍵などの機密情報を自動的にプレースホルダーへ置き換える。サービス提供者はプレースホルダーしか見えず、結果が返された後にプラットフォームが実際の情報を復元する。この機能は鍵を扱う必要のあるエージェントにとって非常に使いやすいが、プラットフォーム自体は依然として元のプロンプトを読み取る。
利用量は多いものの、Surplusは製品とトークンの結びつきが3者の中で最も弱い。SURPLUSトークンは推論費用の支払いに使えず、計算力のルーティングやスケジューリングにも関与せず、市場収益を保有者に分配する公開された仕組みもない。今後この状況は変わるかもしれず、チームはトークンのガバナンス権限の調整計画を進めているが、現時点ではいずれも実現していない。つまり、この市場はうまく回り活発度も上昇し続けているものの、利用量の成長は当面、直接トークン価値に転換できない。
Antseed
Orbioがエージェントのユースケースを主軸とし、Surplusが低価格競争を主軸とするのに対し、Antseedは別の道を歩み、「AI推論分野のBitTorrent」を自称している。
リクエストを中央集権的なゲートウェイ経由で転送するのではなく、各種AIモデルを接続するオープンな計算力ディスカバリーネットワークを構築し、サービス提供者は自ら計算力を登録できる。購入者は利用可能なサービス提供者を自ら検索し、ルーティングAPIに接続して、計算力の提供元を自由に選べる。
このモデルの強みは柔軟性だ。ネットワークはすべてのサービス提供者に開かれており、計算力の供給は非常に多様で、安価な人気モデルもあれば、サービス提供者が実際に自称するモデルを提供しているかを検証する専用のモデル検証サービスもある。購入者は中央集権的なゲートウェイに一律に割り当てられるのではなく、自らのニーズに応じてサービス提供者を選べる。
プロジェクトトークンANTSは現在まだ公開取引されておらず、トークンエコノミクスはこの市場の信頼(レピュテーション)システムを中心に設計されている。買い手も売り手もステーキングに参加でき、サービス提供者はトークンをステーキングすることで自らの信頼を高め、報酬の資格を得られる。
Orbioと異なり、その報酬資金は取引手数料から出るものではない。Antseedはトレジャリー資金で報酬を支給しており、将来的に他の収入源を開放する可能性はあるが、関連する仕組みはまだ実現していない。そのため、推論需要の成長とトークン価値の間の正の相関は、現時点ではまだ検証されていない。
まとめ
興味深いのは、この3プロジェクトの差別化が単なる低価格競争ではないという点だ。Orbioはエージェント領域に軸足を置き、エージェントが自ら計算力を獲得し、さらには自ら調達できるようにする。Surplusは徹底した低価格を掲げ、キーのマスキングといった実用的な機能を重ねる。AntseedはオープンなP2P計算力市場を構築し、ユーザーがニーズに応じてサービス提供者を選べるようにする。
プロジェクトの継続的なアップデートに伴い、今後もユーザーを惹きつける機能が追加されていく。新たな計算力収益モデルなのか。それともエージェント開発に適合したフルセットのエコシステムの構築なのか。今後の展開を見守りたい。


