かつてL2への参入を競ったプロジェクトが、今なぜイーサリアム・メインネットへ回帰するのか

ENSは10月27日、過去最大規模のアップグレード「ENS v2」を専用RollupのNamechainではなく、イーサリアムL1上で正式稼働させた。ENSは9か月前にNamechain計画を中止しており、創設者Nick Johnsonは、L1の拡張が2年前の予想を上回る速度で進み、ENSドメイン登録のGasコストも過去1年で99%低下したこと、L2にはL1にない追加の信頼前提があることを理由として説明した。Vitalik Buterinもこの判断を支持している。

この動きはENSに限らず、Synthetix、Superseed、Trueo、ShapeShift、NillionなどがL2や独自チェーンからL1への移行、または計画の見直しを進めている。Blastは運営費をチェーン収入で賄えないとして段階的な停止を発表し、Abstractも独立チェーンを一般ユーザー向けに運営するモデルは持続困難と判断して、12月15日の停止を予定している。

背景には、イーサリアムのGas上限が2025年に3000万から6000万へ引き上げられ、L1手数料が低下したことや、独自チェーン運営コストの高さがある。記事は、資産保管・所有権確定・決済などの中核状態をL1に置き、注文照合や計算など負荷の高い処理をオフチェーンや別環境に分ける「状態と計算の分離」が、今回の回帰の基盤になっていると分析する。一方、L1への流入が拡張速度を上回ればGas高騰で流れが反転する可能性もあり、Glamsterdamのメインネット実施時期は未定だが、テストネットではGas上限が2億まで引き上げられている。

要約

執筆:William M. Peaster(Bankless)

翻訳:Saoirse(Foresight News)

イーサリアム・ネームサービス(ENS)が、史上最大規模のアップグレードを完了した。注目すべきは、今回のアップグレードが長年準備してきたレイヤー2ネットワークではなく、イーサリアムのメインネットに直接デプロイされたことだ。

10月27日火曜日、ENS v2は正式にL1でローンチした。そして9カ月前にはすでに、ENSは今回のアップグレードを担う予定だったRollupチェーン「Namechain」を断念していた。

ENSは孤立した事例ではない。過去1年間、ますます多くのプロジェクトがレイヤー2ネットワークから撤退し、自前のレイヤー2構築計画を棚上げし、あるいはすでに稼働していた専用チェーンを閉鎖して、中核コントラクトをイーサリアムL1へ戻している。

ひと言でいえば、これはメインネットへの回帰の波だ。

このトレンドの根底にある背景はこうだ。イーサリアムのガスリミット(1ブロックが処理できる計算量)は2025年に3000万から6000万へ引き上げられ、それに伴ってL1の取引手数料は大きく下落した。

イーサリアムは2025年に段階的にブロックのガスリミットを3000万から6000万へ引き上げた。図にはSynthetixの投稿、Vitalikの記事、ENS v2のL1ローンチなどの主要イベントが併記されており、GlamsterdamアップグレードはSepoliaテストネットで2億ガスの上限に達しているものの、メインネットでの稼働時期は未定だ。

一方で、独自のパブリックチェーンを構築するコストは非常に高いことが証明された。今月だけで、BlastとAbstractという2つのレイヤー2ネットワークが、4日のうちに相次いで閉鎖を発表している。

以下、最新のドミノ倒しから始めて、この件の全体像を整理していこう。

ENSはなぜイーサリアムに留まることを選んだのか

ご存じのとおり、ENSは長いウォレットアドレスを「william.eth」のような読みやすく覚えやすいドメイン名に変換できる。

ENS v2はプロトコル全体の抜本的な再構築だ。端的に言えば、今や各ENSドメインはサブドメイン向けに独自の登録体系を構築できるようになり、ドメイン保有者はきめ細かな権限管理を手に入れ、USDCなどのステーブルコインでの関連手数料の支払いにも対応する。

だが本稿で最も議論に値するのは、v2のデプロイ先の選択だ。さかのぼる2024年5月、私は「ENS v2入門」と題する記事を書き、ENS Labsがプロトコルをレイヤー2ネットワークへ移行する計画を紹介した。その計画は後に専用Rollup「Namechain」として具体化する。当時、私はこのアップグレードがENSをメインストリームへ押し上げる新たな段階を切り開くかもしれないと考えていた。

ENS v2が確かに新たな段階を切り開いたことに変わりはない。ただ、その着地点はL2ではなかった。2月6日、ENS創業者のNick Johnsonはこの路線転換についてこう説明した。「イーサリアムL1はスケーリングを進めており、その速度は2年前に大半の人が予想していたものをはるかに超えている」

事実もこれを裏づけている。イーサリアムのスケーリングに伴い、ENSドメイン登録のガスコストは過去1年間で99%下落した。さらにNickは、レイヤー2ネットワークはL1自体には存在しない追加の信頼前提を持ち込むと指摘した。

Vitalik Buterinも同じ日に公の場で賛意を示した。「賢明な決定だ!」

次々と倒れるドミノ

ENSはこの「回帰リスト」の最新メンバーだが、決して最初ではない。

2026年にレイヤー2ネットワーク(または自前で構築する予定だったレイヤー2)からイーサリアム・メインネットへ順次移行したプロジェクトをまとめたもの。移行元プラットフォーム、時期、移行の進捗が記されている。

Synthetixは早くに動いた先駆者だ。2021年にはいち早くイーサリアムRollupをローンチしたが、2025年6月に「レイヤー2は死んだ、イーサリアム万歳」と題する記事を公開し、流動性の断片化などの課題を真っ向から指摘した。

こうしてSynthetixは同年夏にL2上のデプロイを段階的に停止し、新しいパーペチュアル取引所を12月にL1へ投入した。創業者のKain Warwickは後にこう明かしている。「私は2年かけてL2ナラティブを推し進めてきたが、この道はSynthetixには通じなかった。だから我々はメインネットに戻ることを選んだ」

その後2月、Vitalik Buterinは記事で次のような見解を示した。L1自体がスケーリングを続ける一方で、レイヤー2ネットワークが完全な分散化へ向かうプロセスは、当初想定されたよりもはるかに遅く、困難である。彼は、レイヤー2ネットワークの当初のビジョンと、イーサリアム・エコシステムにおけるその位置づけは、もはや成り立たないと結論づけた。

そしてENSはその3日後に、Namechainプロジェクトを中止した。

今年の夏には、Superseedがもう一つの典型的な事例となった。本来の核心メカニズムは、自前のレイヤー2チェーンの手数料でユーザーのローンを相殺するというものだった。しかしプロジェクトは8月15日にこのチェーンを正式に廃止し、現在はエコシステム全体をイーサリアム・メインネットへ移行しつつあり、チェーン手数料に依存する従来モデルをアプリケーション層の収益戦略へ置き換えている。

9月には、DefiLlamaマーケットを支える予測市場プロトコルTrueoが、Baseチェーンから「イーサリアムへ回帰する」と発表した。Vitalikはこの計画への支持を表明している。

10月にも同種の動きが集中して現れた。

  • ShapeShift:10月1日、rFOXステーキングプログラムをArbitrumからL1へ移行。理由は、FOXトークンの大半がそもそもメインネットに保管されていたことにある。
  • Blast:10月2日、段階的な閉鎖を発表。オンチェーン収入が運営費を賄えないためだ。
  • Nillion:10月5日、BlacklightネットワークをL1で稼働。ロードマップでは自前のL2を段階的に廃止するとしている。
  • Abstract:10月6日、12月15日に閉鎖すると発表。一般ユーザーのみを対象とする独立系パブリックチェーンのモデルは持続可能性を欠く、という判断だ。

Abstractエコシステム内の一部のNFTプロジェクト、たとえばGigaverse's ROMsやBEARISHも、L1への移行をすでに発表している。

中核ステートはL1へ回帰するのか

これらの移行の背後には、より根本的なトレンドが隠れている。プロジェクトはステートの保存と計算の実行を分離しつつあるのだ。

Synthetixの新しいパーペチュアルを例にとろう。注文はオフチェーンでマッチングされるが、ユーザー資金はイーサリアムL1でカストディされ、取引の最終決済もL1で行われる。

次にDerive V3。私は今月初めにこのプロジェクトを分析した。取引速度を確保するため注文のマッチングはオフチェーンに置き、リスク計算はゼロ知識証明によって検証し、ユーザー資金はイーサリアムL1のコントラクトに保管する。

ENS v2も同じ発想を踏襲している。ドメインNFTの本体はL1に保管され、サブドメインはCCIP-Read標準を使うことで、L2やオフチェーンでのゼロガス解決が可能になり、利用コストが下がる。CCIP-Readは、ドメインが別の場所に保存されたデータを参照することを可能にする。

言い換えれば、資産のカストディ、所有権の確定、取引の決済といった価値の高い中核部分はL1へ回帰し、計算負荷の高いヘビーな処理はコストが最も低く速度が最も速い環境で実行される。これは従来のRollupモデルとは本質的に異なる。従来のRollupはステートと計算を同時に担うため、ユーザーが資産を引き出そうとすれば煩雑な退出プロセスを経なければならない。

3つのアーキテクチャを比較したもの。従来のRollupはレイヤー2にステートの保存と計算の実行を併せ持つ。新型のハイブリッドアプリは資金や決済といった中核ステートをイーサリアムL1に置き、複雑な計算をオフチェーンに置く。L1.5のエフェメラルRollupはプライベートなステートをユーザーのウォレットが保管し、L1はステートのコミットメントと検証証明のみを保持して、その中間でデータを永続保存しない。

もちろん、L1とその他の環境との境界を徐々に溶かしつつある技術路線もある。

たとえばイーサリアム経済圏(EEZ)。私は3月にこれを紹介した。目標は、イーサリアムとそのRollupの間に同期的なコンポーザビリティを実現すること、つまり異なるチェーン上のコントラクトが同一の取引内で直接やり取りできるようにすることだ。

EEZはアプリをL2から引き剥がすのではなく、Rollupを体験上あたかもL1の一部であるかのようにするものだ。関連計画は具体化しつつある。GnosisDAOは8月の投票で、Gnosis Chainを独立したL1からEEZアーキテクチャのRollupへ改修することを可決した。

さらに新しく、まだ実戦での検証を経ていない構想もある。今週、研究者のnamnc氏はイーサリアム研究フォーラムでエフェメラルRollup(ephemeral rollup)、別名L1.5を提起し、ステートと計算の分離という発想を極限まで推し進めた。

この設計の論理はこうだ。L1はユーザーステートのコミットメントのみを保存し、すべての証明を検証する。ユーザーのウォレットはプライベートなステートを自ら保管する。計算はいずれも短時間のタスクで、実行終了後にはいかなるステートも残らない。L1.5はステートを永続保存しないため、資産の退出プロセスも当然存在しない。

ただし、この回帰の波には前提がある。イーサリアムL1が十分な処理能力の余裕を保ち続けることだ。プロジェクトの流入速度がL1のスケーリング速度を上回れば、ガス代は再び急騰し、局面は反転しかねない。

イーサリアムの重要なスケーリング・アップグレードであるGlamsterdamは、テストネットへの展開計画が先週延期され、イーサリアム財団はメインネットでの有効化時期は現時点で未定としている。

ただしGlamsterdamはテストネットで既にガスリミットを2億まで引き上げており、現在の6000万という上限の3倍以上に当たる。前回ガスリミットが倍増した際の手数料低下効果を踏まえれば、今後メインネットで実装されれば、L1の処理容量はかなりのものになるだろう。

今後どう展開するにせよ、トレンドは明白だ。ますます多くのプロジェクトが最も中核となるステートデータをL1へ戻しており、ENSはその最新の一員にすぎない。

共有先:

著者:Foresight News

本記事はPANews入駐コラムニストの見解であり、PANewsの立場を代表するものではなく、法的責任を負いません。

記事及び見解は投資助言を構成しません

画像出典:Foresight News。権利侵害がある場合は著者へ削除をご連絡ください。

PANews公式アカウントをフォローして、強気・弱気相場を一緒に乗り越えましょう
PANews APP
Talis Protocolのマーケットコントラクトが攻撃、約5700点の預託NFTが盗難
PANews 速報