著者:Franklin Templeton Digital Assets
翻訳:佳欢、ChainCatcher
オープンウェイトのAIモデルの能力が高まるにつれ、製品の価値と差別化の源泉は次第にハーネス(Harness)へと移りつつある。ハーネスとはモデルを取り囲む形で構築されるソフトウェア層であり、モデルにコンテキスト、ツール、メモリーを提供し、ユーザーのリクエストを最も適切なモデルに振り分ける。
フランクリン・テンプルトンの暗号資産事業のマネージング・パートナーであるJulian Love氏は、中立的で分散型のオンチェーン・ハーネスの構築を提唱し、この変化がAIユーザー、開発者、そしてブロックチェーン・エコシステム全体にどのような影響をもたらし得るかを論じている。
汎用型のパーソナルエージェントは消費者の領域に進出しつつある。一方、資金の管理には専用のエージェントが必要かもしれない。そのインセンティブ設計、規制上の資格、稼働するインフラは、汎用製品とは異なるからだ。
現在、ユーザーは各所に分散した財務情報を自分でつなぎ合わせる必要がある。ほとんどの人は複数のアプリや口座の間で資金を管理しており、財務の全体像を一元的に把握できず、あらゆる操作を手作業で行わなければならない。
将来、人々はひとつのエージェントに連絡するだけで済むかもしれない。ユーザーはSMS、音声、アプリ、メールでそれと対話でき、エージェント側からもこれらのチャネルを通じてユーザーに連絡できる。エージェントはユーザーの財務状況の全体を把握し、複数の口座にまたがって行動し、ユーザーの目標達成を支援する。
Instinct、Muse、Grok Botなどのパーソナルエージェントは、資金に関わる日常的な用事を処理するのが得意だが、資金管理のために設計されたものではなく、多くの製品のビジネスモデルはユーザーの消費を増やす方向に働く。
特化型の資産管理エージェントのほうが、この役割に適している可能性がある。汎用型エージェントはユーザーがより多く支出するほど稼ぐ傾向があるのに対し、資産管理型エージェントはユーザーの支出を減らすことで成功をつかむ必要があるかもしれない。
暗号資産インフラはエージェントの利用に適している。オンチェーン・エージェント・ファイナンスではすでに、エージェントウォレット、プログラマブルな権限、自動化されたヴォールト、マシン決済といった、資産管理エージェントに必要な基礎コンポーネントの構築が始まっている。
ほとんどの人にとって、資金管理とは一連の口座を管理することに等しい。ある人の財務生活には、銀行の当座預金口座、雇用主の退職制度プロバイダーが提供する401(k)口座、証券口座、2〜3枚のクレジットカード、異なる保険会社の保険証券、そしてより高い金利を得るために別の金融機関に開いた高金利の貯蓄口座が関わってくるかもしれない。
各口座にはそれぞれのログイン方法、アプリ、通知があり、ユーザーに異なる提案も行う。それらは互いにつながっていない。ある家庭の財務状況の全体像は、ユーザーの頭の中にしか存在せず、しかもそれはユーザーがそれらの情報をまとめる時間があるときに限られる。
こうした負担はユーザーの行動を鈍らせ、あるいは事項をそのまま逃し、最終的に少なからぬ金額を失わせる。
二つの進展がこの状況を変え始めている。
パーソナルエージェント、すなわちAIアシスタントは、今やユーザーが日常言語で表現する意図を理解し、異なる選択肢を比較衡量し、さまざまなチャネルを通じてユーザーとコミュニケーションできる。
オンチェーン・エージェント・ファイナンスは、ソフトウェアが自律的に資金を保有・移転し、資金から収益を得られるようにする基礎コンポーネントを構築している。
前者は理解する能力を、後者は実行する能力を提供する。どちらか一方だけでは、この問題は解決できない。
本稿は、個人資産管理の未来はひとつの統一窓口かもしれないと考える。ユーザーは自分に合ったチャネル——SMS、音声、アプリ、メールのいずれであっても——を通じて同じエージェントに連絡し、エージェントもこれらのチャネルを通じて主体的にユーザーに連絡できる。エージェントはユーザーの財務状況の全体を把握し、ユーザーの目標を理解し、複数の口座にまたがって行動し、これらの目標の達成を支援する。
本稿はさらに、この役割を担うのは今日の主要な汎用パーソナルエージェントではなく、暗号資産インフラ上で動作する特化型の資産管理エージェントである可能性が高いと考える。汎用パーソナルエージェントのビジネスモデルは、消費を促す傾向があるからだ。
以下では、人々が現在どのように資金を管理しているのか、パーソナルエージェントにできることとできないこと、なぜ特化型の資産管理エージェントがこの役割により適しているのか、そしてなぜ暗号資産インフラがエージェント・ファイナンスに適しているのかを紹介する。
人々は今、どのように個人財務を管理しているのか
フィンテックが約20年発展してきたにもかかわらず、多くの人は依然として主に手作業で財務を管理している。アプリを一つずつ開いて残高を確認し、請求書を支払うために金融機関の間で送金し、支払期日を頭に記憶し、時間があるときにスプレッドシートで全体を突き合わせる。
個々の製品はそれなりに機能している。本当に手間がかかるのは、それらの製品同士をつなぐ作業だ。
問題はどこにあるのか:
統一されたビューがない。 純資産、キャッシュフロー、目標の達成進捗は異なる金融機関に分散しており、各機関はデータを共有していない。
事後対応に終始し、主体的な管理がない。 人々は通常、手数料、金利の変化、逃した機会に気づくのは、すでにコストを払った後になる。
アドバイスは高価か、大まかすぎるかのどちらかだ。 個別化された財務プランニングの価格は主に富裕層向けであり、それ以外の人が得られるのは一般的な助言にとどまる。
意思決定は先送りされ続ける。 あらゆる操作に調べ物、口座へのログイン、送金が必要となると、人々は何もしないという選択をしがちだ。
思いは行動にならない。 「もっと貯金すべきだ」という考えは、それを計画に変え実行に移すツールが存在しないため、思いにとどまりがちだ。
パーソナルエージェント:なぜ個人資産管理には専用のエージェントが必要なのか
この状況を変える可能性のある最初の技術がパーソナルエージェントだ。
パーソナルエージェントは、ユーザーの代理として行動する汎用AIアシスタントである。質問に答え、調査を行い、文章を起草し、用事を整理し、さらにますます多くの場面でユーザーのアプリ内で行動を起こせるようになっている。
現時点で、個人資産管理に応用する場合、彼らは資金に関わる日常的な用事の処理には非常に長けているが、資金を直接管理するのはあまり適していない。
主要な汎用エージェント
2026年は、汎用パーソナルエージェントがブレイクを迎える年だ。
ユーザーはSMSや電話でInstinctに連絡し、予約、購入、サブスクリプションの解約を代行させることができる。MetaのMuseは、メール送信、旅行予約、フォーム入力、チェックアウトの完了を、自社アプリ内でもWhatsApp内でも行える。SpaceX AIのGrok Botは、各エージェントに独立したクラウド上のコンピューターを用意し、ユーザーが既存で使っているアプリにログインして、人間のように操作させる。
これらのエージェントはいずれも、金銭に関わる業務にすでに触れている。支払い、課金項目の解約、請求書の交渉などだ。パーソナルエージェントの争奪戦は始まったばかりであり、日間アクティブユーザー36億人を擁するMeta、評価額100億ドルのスタートアップ、そしてSpaceXAIが、人々が日常生活を託したいエージェントの座を争っている。
これらのエージェントが資金管理にどこまで関与できるかは、まだオープンな問いだ。いくつかの要因は、新たなカテゴリーである特化型の資産管理エージェントのほうがこの役割に適している可能性を示している。使い勝手は今日のパーソナルエージェントと似ているが、最初から資金管理を中心に構築されている。
インセンティブ:お金がどこへ流れるかを見る
最も重要な要素は経済的利益だ。汎用エージェントを開発する企業は通常、ユーザーがより多く支出するほど収入が増え、その収入は広告、取引手数料、あるいは加盟店からの手数料に由来し得る。
一方、個人資産管理エージェントは、正反対のことをすることで成功する必要があることが多い。
Metaの2026年第2四半期の収入の約98%は広告によるものだ。9月のConnectカンファレンスで、ザッカーバーグは、Museは大多数のユーザーにとって引き続き無料とし、Metaは将来的にMuse経由で完了した買い物、予約、その他の取引から少額の手数料を徴収して収益化することを見込んでいると述べた。同時に、MetaはWalmart、Best Buy、Gap、Sephora、Wayfairなどの小売業者との新たな提携も発表した。
Instinctの創業者によると、同製品は年間約10億ドル相当の取引を処理しており、その半数以上が旅行関連だ。9月末、Instinctは「Instinct Selections」と呼ばれる機能を通じて、厳選した商品、飲食、旅行のレコメンドをユーザーに配信し始めた。一部の初期ユーザーからは、こうしたレコメンドを自分から求めていないという批判が出た。
Grok BotはSuperGrokとCursorのサブスクリプションで販売されている。ただし、その親会社のIPO申請書類は広告をAI事業の中核的な収益化チャネルと位置づけ、広告をリアルタイムの会話に組み込む計画を示している。
取引量の増加に伴って収入が増えるエージェントは、優れた買い物の執事にはなれても、利益相反を抱える財務アドバイザーになり得る。個人資産管理エージェントの仕事は、ユーザーにある商品を買わないよう説得することであることが多く、そのビジネスモデルもそうした行動を支えられるものでなければならない。
インセンティブに加えて、同じ結論を指し示す要因がもう二つある。
第一に、資金の移動、投資の推奨、債務の管理には免許や適合性の要件が伴い、場合によっては受託者責任も生じる。したがって、汎用エージェント企業がこれらの業務を担うには、コンシューマーテック事業とは別に、規制を受ける金融事業を構築する必要がある。
第二に、個人資産管理ではカバー範囲よりも専門的な深さが重視される。汎用エージェントは数千種の日常業務をそつなく処理する必要があるが、資産管理エージェントは、すべての口座を突き合わせ、ユーザーの実際の保有状況に基づいて税務上の影響を試算し、返済の順序を組み、計算する数字の一つひとつが正確であることを保証しなければならない。
これには専用に構築された情報の理解・検証・実行のシステム、すなわち本稿の後半で紹介する技術体系が必要であり、汎用エージェントに資産管理スキルを付け足すだけでは足りない。
流用できる能力
先行する個人資産管理エージェントは、今日のパーソナルエージェントの成功点を多く取り入れるだろう。新しいインターフェースを覚える必要がなく、SMSと音声を主要なコミュニケーションチャネルとし、主体的にユーザーに連絡し、ユーザーの情報を記憶する。
こうした製品の形は次第に明らかになりつつある。まだ確定していないのは、話が資金に及んだとき、誰がユーザーの信頼を勝ち取り、このサービスを提供する主体になるのかという点だ。
最も可能性の高い最終形は分業・協働だ。ユーザーの汎用パーソナルエージェントが日常生活を管理し、資産管理エージェントが資金を管理し、両者が相互に連携する。
エージェント間の通信はすでに現れ始めており、Instinctが異なるユーザーのエージェントを調整するネットワークがその一例だ。したがって、ユーザーが日常的に使うエージェントに「旅行に行く余裕があるか」と尋ねると、その質問はユーザーの財務状況を本当に把握している資産管理エージェントに転送され得る。
このモデルでは、汎用エージェントが執事(ハウスキーパー)の役割を担い、専用の資産管理エージェントが最高財務責任者(CFO)の役割を担う。
要点:パーソナルエージェントは資金に関わる日常的な用事の処理に長けているが、そのビジネスモデル、規制上の資格、広範な機能的位置づけから、資金を直接管理するのには完全には適していない。利用体験が似ていても資産管理のために設計されたエージェントのほうが、この役割に適している可能性がある。
エージェント・ファイナンス:なぜ暗号資産インフラはAIエージェントに適しているのか
二つ目の進展はエージェント・ファイナンス、すなわち資金を自律的に保有し、移転し、資金から収益を得ることのできるソフトウェアだ。
伝統的金融にも類似の製品はある。ロボアドバイザー、現金の自動スイープ、定期的な請求書支払いなどだ。しかしこれらの製品はいずれも単一の金融機関の内部に閉じており、その設計対象は人間の口座保有者であって、ユーザーの代理として行動するソフトウェアではない。
構造的な理由から、より意義深い進展はオンチェーンで起きている。
暗号資産インフラはデフォルトでオープンだ。エージェントは自身のウォレットを持ち、コードを通じて任意のプロトコルと直接やり取りでき、ユーザーのログインを模擬する必要も、異なるシステム間の接続完了を待つ必要もない。
これらのインフラ自体が、コードによってルールを設定できる。したがって、ユーザーが設定した制限は、エージェントが守るべきルールであるだけでなく、ウォレットによって強制できる。エージェントが誤りを犯したり操作されたりした場合、取引は通らない。
これらのインフラは24時間365日稼働し、ステーブルコインは数秒で決済が完了し、トークン化資産も24時間収益を生み出せる。
さらに検証可能性も備える。すべての操作は公開台帳に記録されるため、ユーザー自身が確認できる。
こうしたインフラには現実のリスクもある。スマートコントラクトの脆弱性やステーブルコインのペッグ外れなどだ。ユーザーの代理としてこれらのリスクを管理することも、エージェントの仕事の一部だ。
しかし、まさにこうした特性ゆえに、エージェント・ファイナンスの基礎コンポーネントはまずオンチェーンで登場している。現在、これらのアプリケーションの多くはトレーダーや暗号資産ネイティブのユーザーにサービスを提供している。
だが総合的に見れば、それらは個人資産管理エージェントが操作を実行するために必要な基盤を構成している。
要点:暗号資産インフラはすでに、エージェントがユーザーにとって検証可能なルールの下で幅広い操作を行うことを可能にしており、オンチェーン・エージェント・ファイナンスも実行に必要なツールを構築しつつある。今欠けているのは、こうした能力を活用して個人の財務生活の全体を管理するエージェントだ。
未来:ひとつの統一窓口
パーソナルエージェントの利用体験と、オンチェーン・エージェント・ファイナンスが構築しつつある能力を組み合わせ、資金管理のために設計された製品に応用すると、ソリューションの輪郭が見えてくる。ユーザーを理解し、さまざまなチャネルでユーザーに連絡でき、ユーザーのすべての口座を操作できるエージェントだ。
このモデルでは、ユーザーは自分で各口座を統合する必要がなくなる。ユーザーはその時点で最も便利なチャネルで同じエージェントと話せる。スーパーでレジ待ちの列に並びながらSMSを送り、車で帰宅する途中に音声を送り、詳しく確認したいときにアプリを開き、処理すべき書類があるときにメールを送る。
注視すべき事項があるときは、エージェントからもユーザーに主体的に連絡する。請求書の支払期日が近づいた、金利が変化した、ある目標の進捗が計画から外れた、といった場合だ。
意図から結果へ
この製品を測る基準はシンプルだ。日常言語で表現された目標を、最後まで結果に変換できるかどうか。
以下では、よくある目標を例に、このプロセスを示す。
何を構築する必要があるのか
こうした体験を提供するには、銀行口座の上にチャットボットを載せるだけでは足りない。製品は以下の三つの側面を同時に成し遂げなければならず、どれ一つ欠けてもならない。
専門性と主体性
金融商品、戦略、機会について深く理解する。一般的な知識だけでは足りない。
ユーザーが問題に気づく前にニーズを先読みする。たとえば金利の低下、支払期日の接近、より安価な保険商品の出現などだ。
ユーザーの意図と目標を具体的な財務成果に変換する。
ユーザーが要求するのを待つのではなく、これらの成果の実現を継続的に推進する。
継続性と相互接続
すべてのチャネルで同じメモリーを共有し、SMSで始めた会話を音声で続けられ、最初から説明し直す必要がない。
取引の計上や口座残高の変化に応じて、関連情報が自動的に最新の状態に保たれ、ユーザーが手動で更新する必要がない。
ユーザーが利用するすべての金融機関と、安全で認可された接続を確立する。
バックグラウンドで稼働し続け、注視すべき事項があるときに主体的にユーザーに連絡する。
信頼を設計の基盤とする
すべての提案を、そこに含まれるトレードオフも含めて平易な言葉で説明する。
影響の大きい操作にはユーザーの承認を必要とし、日常的な操作はユーザーが設定した上限の範囲内で自動実行する。
エージェントが何をしたのか、なぜそうしたのかを完全に記録し、ユーザーが閲覧できるようにする。
常にユーザーに制御権を残す。権限はいつでも変更・取り消しできる。
なぜ今なのか
こうした製品はますます受け入れられつつある。
今年、初期のユーザーはSMSでエージェントに連絡し、それがタスクを完了する様子を見始めた。関連するインフラも登場している。財務的な推論ができるモデル、金融機関の間で拡大し続けるオープンバンキングの接続、そしてエージェントがすでに利用している決済インフラだ。
一方、消費者と直接接するうえで最も有利な立場にある企業、すなわち現在の汎用パーソナルエージェントの提供者たちは、資金管理に関して構造的な利益相反を抱えている。
これにより特化型のプレイヤーにチャンスが残されているが、そのチャンスは長く続かないかもしれない。
こうしたプレイヤーは、暗号技術を基盤に製品を構築することを優先する可能性がある。米国のステーブルコイン立法が正式に発効したことで、オンチェーン・インフラは製品の立ち上げ当初から実際の操作を支えられ、伝統的な口座は時間をかけてオープンバンキング経由で段階的に接続できる。
最初にユーザーの信頼を勝ち取り、さまざまなチャネルでユーザーと連絡を取り、実際にユーザーの資金を配分して目標達成を支援できる個人資産管理エージェントが、この製品カテゴリーを定義する可能性が高い。
注目すべきは、パーソナルエージェントの使いやすさ、オンチェーンでの操作能力、金融グレードの信頼メカニズムを組み合わせられるチームだ。



