著者:Golem Foundation、Ethereum Institutional
翻訳:佳欢、ChainCatcher
上場企業、ファンド、暗号資産機関の間で、ETHをバランスシートに組み入れる動きが広がっている。問題は、保有した後にその資産をどう使うかだ。
最も直接的な選択肢はステーキングだが、ステーキングに回るETHが増えるにつれ、利回りは2022年の平均4.5%から約2.2%まで低下した。
ETH建てで見ると、レンディングと流動性供給の収益はいずれもステーキングを下回る。より高い収益が狙える選択肢にはファーストロス・プロテクションとカバードコールがある。前者はプロトコルの貸倒れリスクを引き受けることで収益を得るもので、後者はETHを保有しながらコールオプションを売り、将来の上昇余地の一部と引き換えにプレミアムを受け取る。
Kairos ResearchがGolem Foundation、Ethereum Institutionalと共同で発表した本レポートは、主要なETHトレジャリーの保有状況と配分方法を整理し、各戦略の収益とリスク、そして機関投資家がETHの将来需要をどう見ているかを比較している。
主なポイント
- ステーキング利回りは半減。 ステーキングされたETHは約3.5倍の4,520万枚に増え、Lidoの利回りは2022年の平均4.5%から現在の2.2%へ低下した。現在、主要なリキッドステーキングトークンの利回りはすべて2.1%から2.3%の範囲にある。
- トレジャリーは相当な割合のETHを保有。 上場企業は803万枚のETHを保有し、総供給量の6.6%を占める。米国の現物ETFは約610万枚(5.0%)を保有。本レポートが追跡する28のトレジャリーでは、配分状況が確認できるETHの約74%がすでにステーキングされている。
- ETH建てでステーキングを上回る戦略は少ない。 レンディングの利回りは1.3%、流動性供給は1.2%で、いずれもステーキングの2.2%を下回る。利回りが上回るのはファーストロスを負担する保証メカニズムとカバードコールのみで、それぞれ4.8%と7.6%だが、どちらも異なるリスクを伴う。
- セキュリティが最大の単一要因。 2026年はこれまでに328件のハッキングが発生し、2025年通年は148件だった。被害額はそれぞれ87.8億ドルと27.2億ドル。これには2026年10月29日に起きた63.6億ドルのBinance流出事件が含まれる。
- ETHの保有は通貨ポジションでもある。 2018年11月以来、ETHを1年間保有した場合のリターンは-92%から+2,142%の範囲にわたり、中央値は+14%。1年間の保有期間の45%が損失となった。
- 保有者はステーキング以外の選択肢を求めている。 調査に応じたすべてのサービスプロバイダーが、ステーキング利回りは「基礎ではあるが、それだけでは十分ではない」と述べた。これらの回答者とインタビューに応じたトレジャリー企業は、合計で710万枚のETH(約160億ドル相当)を保有または管理している。資産配分の主な障壁は利回りではなくガバナンスだ。
はじめに
過去数年で、ETHはさまざまな組織のバランスシート上の資産となった。上場企業、ファンド、暗号資産ネイティブの機関が現在、大量のETHを保有しており、その大半がステーキングに回されている。ステーキングは機関に対し、他の資産では得にくいリターン、すなわちプロトコル自体から生じるネイティブな収益をもたらす。これは保有者にとって新たな収入源も生み出した。ステーキング利回りが低下するにつれ、問いは次へと移る。これらのトレジャリーはETHで他に何ができるのか。
Kairos ResearchがGolem Foundationと共同で発表した本レポートは、こうした選択肢の実務ガイドだ。Golem Foundationは2019年以来、自社のETHトレジャリーを運用しており、本レポートはその実務経験も踏まえている。レポートはETH保有者が選び得る各手法を検討し、リターンを測定するとともに、リスクについても率直に論じる。ETHの価格変動が、コストを米ドルで支払う組織にとって何を意味するかも含む。
Ethereum Institutionalでは、銀行や資産運用会社、企業とこうしたテーマを議論する時間を多く取ってきた。トークン化やイーサリアム上での決済といった、より広い話題も扱う。こうした対話の多くは非公開で行われるため、本レポートのような公開研究は議論を後押しする助けになる。
機関によるETH採用の第1段階は、ETHを保有すべきかどうかに焦点を当てていた。次の段階の焦点は、いかにうまく使うかであり、本レポートはそのための実務的な参考資料となる。
何が問題なのか?
現在、各種トレジャリーが保有するETHは総供給量の相当な部分を占める。上場企業は803万枚(総供給量の6.6%)、米国の現物ETFは約610万枚(同5.0%)を保有し、DAOや財団も数十万枚を保有している。
その多くはステーキングに回されているが、他の用途に使われるETHはまだ少ない。ネットワーク全体の約37%のETHがステーキングされている一方、レンディングプロトコルへの預入は約3%、リステーキングは2%にとどまる。
問いは「バランスシートにETHを持つべきか」から「ETHのエクスポージャーをどう配分すべきか」へと変わった。
以前は、ステーキングが明快な答えだった。しかしネットワーク全体のステーキング量が同期間に約3.5倍に増えたことで、Lidoの利回りは2022年の平均4.5%から現在の2.2%へ低下した。
ここから本レポートの中心的な問いが生まれる。大規模なETHトレジャリーにとって、ステーキングだけで十分なのか。最大級のETH保有者は、これらの資産から収益を生み出すために他にどのような選択肢を持っているのか。
インタビューまたは調査に応じたトレジャリー企業、サービスプロバイダー、資産運用会社のほぼすべてが、ステーキング以外の収益を探す時期に来ていると考えていた。サンプル数は小さいものの、参加者にはこの分野の最大級の企業が含まれ、合計で710万枚のETH(約160億ドル相当)を保有または管理している。
以下のレポートでは、データを通じて、どの機関がETHをバランスシートに組み入れているのか、それをどう使っているのか、そしてETHを保有する投資ロジックを明らかにする。構成は次のとおりだ。
- ETHはどこにあるのか:誰がETHを保有し、最大級のトレジャリーや企業がそれをどう配分しているか。
- ステーキングとその他の選択肢:ステーキング、リステーキングからレンディング、ファーストロス・プロテクション、カバードコールまで、ETHを収益化するオンチェーンの手法を整理する。収益はすべてETH建てで測る。
- 天秤にかけるべきリスク:各選択肢の背後にあるスマートコントラクト、信用、流動性、スラッシング、オペレーショナルリスクを分析し、トレジャリーが自身の短期的な資金需要に応じて判断できるようにする。
- ETHのパフォーマンス:ETHの最良、最悪、中央値レベルの年間パフォーマンスを振り返る。継続的な運営コストを支払う組織の多くは米ドルで決済するため、ETHの保有は通貨ポジションでもある。ETHのボラティリティと、それがこの数年でいかに成熟してきたかを検討する。
- ステーブルコインの利回りとの比較:Aaveのレンディング、Ethenaのベーシストレード、OnReの再保険、USDaiのGPU担保レンディング、トークン化された米国債の利回りを比較する。これらのドル建て利回りは比較のベンチマークとなり、イーサリアムや他のネットワーク上のアプリが現在ユーザーに直接どれだけの収益を提供しているかを示す。
- 保有者の見方:ステーブルコイン、トークン化資産、L2の発展に伴いETH需要が伸びるかどうか、そして現在のデータが何を示しているかを検討する。
一、誰がETHを保有し、どう使っているのか
ETHの収益機会と、主要な保有者が何を求めているかをよりよく理解するには、まずETHの供給分布を知る必要がある。ETHの3分の1以上がステーキング済みで、上場企業は現在、総供給量の6.6%を保有している。2026年10月31日時点の1ETH=2,253.47ドルで計算すると、この資産は約181億ドルに相当する。DAOや財団のトレジャリーの保有比率はより小さく、その大半がステーキングされている。
ETHの3分の1以上がステーキング済み
- 約4,520万枚のETHがステーキングされており、総供給量の37%を占める。うち1,680万枚はリキッドステーキングトークンに対応する。
- 上場企業は803万枚のETHを保有し、最多はBitmineの605万枚、Sharplinkは89万枚。米国の現物ETFは約610万枚(総供給量の5.0%)を保有する。本レポートが追跡するDAOと財団のトレジャリーは総供給量の0.6%を保有する。
トレジャリーはETHをどう保有しているか
- 本レポートが追跡する28のトレジャリーでは、配分状況が確認できるETHの約74%がステーキングされており、うち51%がネイティブステーキング、23%がリキッドステーキングトークンを通じた保有だ。約21%は未ステーキング、約5%がレンディングに使われている。さらに総保有量の約12%に相当するETHがオフチェーンに保管されており、主にMantleに帰属するが、その具体的な用途は開示されていない。上記の数字はすべて四捨五入されている。
- トレジャリーごとに方針は異なる。Lido、Gnosis、Golem Foundationのステーキング比率はいずれも95%以上で、Gnosisはさらにステーキング済みのETHを担保に、約2,500万ドル相当のETHを借り入れている。Arbitrumのステーキング比率は89%、ENSは83%だ。
- Mantleはオンチェーンで保有するETHのほぼすべてをステーキングしているが、ETHの約71%はオフチェーンに保管され、用途は公開されていない。イーサリアム財団は保有規模が最大で、約19.1万枚のETHを保有する。36%がステーキング、13%がレンディング、約半分が未ステーキングだ。2.2%の利回りで計算すると、遊休ETH 10万枚ごとに年間約2,200枚のETHを得損していることになる。これはETHをステーキングしない場合に見落とされがちな機会費用だ。
「私たちは初日からイーサリアムに強い信念を抱いてきた。Golem Foundationは2019年の設立以来、ETHの長期保有をトレジャリー戦略として位置づけ、ETHのステーキングと自前のバリデータノードの運用を長年続けてきた。ステーキングは当財団の持続可能性に大きく貢献し、Octantを通じてユーザーとイーサリアムで最も優れたチームに5,273枚のETHの資金提供を行うことも可能にした。ETHをただ保有しステーキングする段階は終わったと私は考えている。私たちにはETH建てのイーサリアム経済が必要だ。ステーキング利回りの低下に伴い、ステーキングだけに頼ると実現できることが限られると気づいた。私たちはリスクがより低く、ETHのロング・エクスポージャーを維持する手段への分散に取り組み、ETHトレジャリーをより有効に機能させる方法を積極的に模索している。」
Julian Zawistowski、Golem Foundation 創設者兼エグゼクティブディレクター
オンチェーンデータは、プロトコル、投資会社、事業会社がいずれも大量のETHエクスポージャーを構築し、保有し続けているという見方を裏付けている。次ページのArkhamのデータはETHトレジャリーの世界のごく一部にすぎない。L2や取引所も大量のETHを保有していることは確かで、その中には約1.63万枚(約3,700万ドル相当)を保有するArbitrum DAOも含まれる。
ほかに誰がオンチェーンでETHを保有し、ステーキングしているか
最大級の企業保有者はETHをどう配分しているか
- Bitmineは605万枚のETHを保有し、うち523万枚(86%)をリキッドステーキングトークンではなくネイティブのバリデータノードでステーキングしている。ステーキングの大部分はMAVANを通じて行われる。Bitmineは2026年3月にノード運営事業者Pier Twoを買収した後にこのバリデータノード網を構築した。Bitmineが開示したステーキング利回りは2.58%で、年間約3億1,800万ドルのステーキング収入をもたらす。ステーキング収入は前四半期の総収入の98%を占める。同社はリステーキング、レンディング、流動性供給、オプションのポジションを開示していない。
- Sharplinkのポートフォリオ配分は異なり、約3分の2がネイティブステーキング、3分の1がリキッドステーキングだ。同社は設立以来、2億ドル相当のether.fiのweETHをLineaとEigenCloudに配備した。Lidoを通じて約10.6万枚のETHをwstETHとして保有し、価値は約2億ドル。さらに1億ドル相当のステーキング済みETHをGalaxyが運用するオンチェーン収益ファンドに投じている。2026年9月29日時点で、Sharplinkが累計で得たステーキング報酬は28,351枚のETHに達する。
彼らの見解
「世界最大の企業ETH保有者として、Bitmineは2025年6月にトレジャリー戦略を開始して以来、毎週保有量を増やしており、ETH総供給量の5%を保有する目標に近づいている。MAVANを通じて、当社は自社のETHを顧客のETHやその他のデジタル資産とともにステーキングし、ネットワークの安全性を確保しながら、エコシステムに不可欠なインフラサービスを提供している。当社はイーサリアム・エコシステムの商業化を推進する投資も行っており、株主価値の創出を期待している。こうした投資にはBeast IndustriesやEightco Holdingsといった『ムーンショット』型のプロジェクト、そして最近イーサリアム財団から孵化したEthlabs、Ethereum Institutional、EthSystemsが含まれる。後者の共通の目標は、ネットワークが大規模に機関を支援できるようにすることだ。」
Young Kim、Bitmine 最高執行責任者(COO)兼最高財務責任者(CFO)
「過去1年、私たちはステーブルコイン、トークン化資産、DeFi、AIエージェントが同時にイーサリアムに流入し、経済的な大爆発が起きるのを目にしてきた。これは前例のない成長をもたらすだろう。世界第2位の企業ETH保有者として、私たちは2027年を、バランスシート上の永久資本を活用し、的を絞った投資によってこの転換を加速させ、同時に株主に報いる機会と捉えている。私たちはETHをステーキングしてネットワークの安全性を支え、新たなプロトコルに最初の流動性を提供し、ETHLabs、Ethereum Institutional、ETH Systemsといった組織への資金提供を支援することで、イーサリアムが次に参入する個人と機関を受け入れられるよう準備している。」
Joseph Chalom、Sharplink 最高経営責任者(CEO)
二、ステーキング利回りは半減し、機関は新たな選択肢を探し始めた
ステーキングはイーサリアム・ネットワークにおける既定の収益源であり、他の戦略が上回るべきベンチマークでもある。そのベンチマークは低下しており、リステーキングはまだ意味のある追加収益源にはなっていない。
ステーキング利回りが低下し、トレジャリーはより多くの選択肢を探している
- Lidoの利回りは半減し、2022年の平均4.5%から現在は2.2%となった。現在、主要なリキッドステーキングトークンの利回りはすべて2.1%から2.3%の範囲にある。
- 2022年以降、ステーキングされたETHの量は約3.5倍に増え、当時の平均1,290万枚から4,520万枚になった。ステーキングに参加するETHが増えるほどネットワークのステーキング利回りは下がるため、利回りがさらに低下する可能性はある。
リステーキングはまだ目立った収益をもたらしていない
- 現在260万枚のETHがリステーキングされており、総供給量の2.1%を占める。そのほぼすべてがEigenLayerにある。この数字は2024年半ばの約500万枚を下回る。Symbioticは約6万枚のETHを保有する。
- リキッドリステーキングトークンの利回りは2.2%から2.7%、通常のステーキングの利回りは2.2%だ。したがって、ポイントやEIGENのインセンティブを除けば、追加のスラッシング・リスクと流動性リスクを負って得られる上乗せ収益は多くない。
- リステーキングがかつて提供していた上乗せ収益の大部分は、リステーキングされたETHを利用するサービスが支払う手数料ではなく、EIGENのエアドロップ、ポイントプログラム、その他のトークンインセンティブに由来していた。これらのインセンティブが徐々に縮小するにつれ、通常のステーキングに対するリステーキングの利回りプレミアムはほぼ消滅し、リステーキングされたETHの量も2024年のピークから約半分に減った。
三、ステーキング以外に、ETHでどう収益を上げるのか
ETHトレジャリーにとって適切な尺度は、ある戦略がドル換算価値を増やすだけでなく、ETHの数量を増やせるかどうかだ。以下の戦略は流動性、リスク、リターンの面でそれぞれ異なり、トレジャリーの配分方針によって適したものが変わる。
ETHの収益比較
- ETH建てで見ると、レンディングの利回りは1.3%、流動性供給は1.2%で、いずれもステーキングの2.2%を下回る。利回りがより高いのはファーストロス・プロテクションとカバードコールのみで、それぞれ4.8%と7.6%だ。このうちカバードコールの数字は2021年以降のETH建て年率収益である。ただし、この2つの戦略はそれぞれ異なるリスクを伴う。
- ベーシストレードや米国債の取引が生むのはドル建ての収益であり、保有者はETHのエクスポージャーを失う。現在の4.50%の金利でUSDCを借り入れ、利回り4.09%の米国債を購入すれば損失が出る。
AaveでETHを貸し出す
- 現在、AaveでWETHを貸し出す利回りは1.3%、2026年の平均利回りは1.7%で、同量のETHをステーキングする場合より約0.9ポイント低い。
- Aave UmbrellaはWETHに4.8%の利回りを提供するが、預け入れた資産は貸倒れを補填するためにスラッシングされる可能性がある。したがって、上乗せ収益はファーストロス・リスクを引き受けることへの対価だ。
カバードコール
- 現在、満期42日、権利行使価格が現物価格より10%高いコールオプションのプレミアムは、保有ETH数量の3.2%相当となる。ETHのインプライドボラティリティは51%で、2021年以降のいずれの年の平均よりも低いため、オプションのプレミアムは相対的に割安だ。
- 2021年以降、権利行使価格が現物価格より10%高いコールオプションを毎月売却する戦略の米ドル建て年率リターンは17.1%、同期間にETHを保有した場合の年率リターンは8.8%だった。ただし上昇相場では前者が明確に劣後し、2024年のリターンは9%に対し、ETHの保有は53%だった。
四、収益の裏側:各戦略にはどんなリスクがあるのか
ステーキング以外の一歩は、いずれも何らかの面でリスクを高める。適切な組み合わせは、トレジャリーが今後12〜24カ月でどれだけのETHを売却する必要があるか、そしてどれだけの損失に耐えられるかによって決まる。
- リキッドステーキング:ペッグはずれリスクと解約待ち行列により、優位性が以前ほど魅力的でなくなる可能性がある。
- ファーストロス・プロテクション:支払能力と貸倒れのリスクに直面する。
- カバードコール:上昇時の収益が限定され、一部のオプション取引プラットフォームではカウンターパーティリスクも生じる。
- レンディング:スマートコントラクト、流動性、貸倒れのリスクに直面する。
- リステーキング:スラッシングリスクが外部サービスに紐づき、リステーキングトークンの解約流動性も相対的に弱い。
- ベーシストレード:取引所のカウンターパーティリスクに直面する。過去1年間、時間別の資金調達率がマイナスだったのは16%から18%の時間帯に上る。
これらすべてのリスクの中で、セキュリティが今や最大の単一要因となっている。
セキュリティは実際のコストである
- 2026年はこれまでに328件のハッキングが発生し、2025年通年は148件だった。被害額はそれぞれ87.8億ドルと27.2億ドル。2026年10月29日だけでBinanceは約63.6億ドルを失い、記録上最大規模の暗号資産窃盗事件となった。攻撃者は事前にホットウォレットの署名基盤を突破していた。
- Binanceの事件を除くと、秘密鍵や鍵の侵害とクロスチェーンブリッジの脆弱性による損失はそれぞれ約7億ドルだった。
五、ETHを保有しながら、請求書はドルで支払う
ほとんどのトレジャリーは給与や取引先への支払いを米ドルで行うため、ETHの保有は通貨ポジションでもある。結果の幅は大きく、好調な年は10年分の運営資金をもたらし得る一方、低調な年は運営資金を半減させ得る。
最良・最悪・中央値の年
2018年11月以来、ETHを1年間保有した場合のリターンは-92%から+2,142%の範囲にわたり、中央値は+14%。1年間の保有期間の45%が損失となり、14%の保有期間では半分以上の損失を記録した。
過去1年間、ステーキングしたETHはETH建てで2.4%の収益を得たが、ドル建てでは36.8%の損失となった。ETHトレジャリーにはETH建ての業績評価基準が必要だ。
ボラティリティ
- 過去1年間のETHのボラティリティは61%で、ビットコインの1.4倍、ナスダック100指数の3.1倍、S&P500指数の4.8倍、金の2.1倍に相当する。
- 2018年以降、ETHの1日の変動率が5%を超えた日の割合は19%。QQQとSPYは約1%だ。
ETHは成熟しつつあるのか?
- 2018年から2022年まで、ETHの年間平均ボラティリティは約96%だったが、2023年以降は約62%に低下した。1日の変動率が5%を超えた日の割合も、以前の年17%から32%だったところから、年7%から17%へと下がった。ETHが成熟し保有者層が広がるにつれ、価格変動はいくらか緩やかになっている。
- ただし2025年8月の高値から2026年6月25日の安値まで、ETHはなお68%下落した。2025年のETHのボラティリティはビットコインの1.8倍で、両者の差は2018年以来最大となった。したがってトレジャリーは、各サイクルで起こり得る深いドローダウンに備える必要がある。
ETHと他の主要L1トークン:ドローダウン
- 2021年以降の最大ドローダウンはETHが79%、SOLが96%、BNBが71%。2024年11月上場のHYPEの最大下落率は68%だ。
- 2026年10月20日時点で、ETHは高値から50%下落、SOLは60%下落、BNBは44%下落している。HYPEは2026年9月の高値から18%下落した。
ETHと他の主要L1トークン:ボラティリティ
- 過去1年間のボラティリティはETHが61%、SOLが64%、BNBが45%、HYPEが90%。
- 2025年以降ではETHが69%、SOLが76%、BNBが49%、HYPEが98%だ。
六、ステーブルコインの利回りはより良い選択肢になるのか
レンディング、ベーシストレード、再保険、GPU担保融資などの戦略を通じて、オンチェーンで保有するドルは米国債を上回る収益を得られる。これらの利回りはあらゆるETH戦略を測る比較基準であり、オンチェーンアプリが現在ユーザーに直接どれだけの収益を提供しているかを示す。補助金が減り、より多くの資金が流入するにつれ、これらの利回りも低下している。
オンチェーンのドル利回り
- オンチェーンのドル利回りは、AaveのUSDTの3.3%からSolana上のOnRe再保険の11.0%まで幅がある。BlackRockとOndoのトークン化された米国債の利回りは3.7%から3.8%。USDaiがArbitrum上で提供するGPU担保ローンの利回りは6.2%だ。
- Aaveの利回りはUSDCが3.8%、USDTが3.3%で、2024年の平均水準のおよそ半分にあたる。当時はそれぞれ7.2%と6.3%だった。sUSDeの利回りは5.1%だが、過去1年間は0.1%から5.7%の範囲で変動し、解除には7日を要する。
ベーシストレードの収益低下
ベーシストレードの収益と資金調達率の変化
- 大量の資金がベーシストレードに流入したことで、HyperliquidのETH資金調達率は2023年と2024年の22%から2026年は5.9%に低下し、sUSDeの利回りも17.5%から4.2%へ下がった。収益低下の一部の時期は、ETH先物ETFが2023年10月に、ETH現物ETFが2024年7月に登場した時期と重なる。これらの商品はベーシストレードの担い手に新たな取引の場を提供した。
- 過去1年間、時間別の資金調達率がマイナスだったのは16%から18%の時間帯に上る。現在、Deribitの満期到来先物では4.3%から4.7%の年率収益を確保できる。
七、機関はなぜETHを保有するのか。需要はどこから来るのか
第一部から第六部までは公開市場とオンチェーンのデータを用いた。最後の部では、大規模なETH保有者の背後にある投資ロジックに目を向ける。どのような要因がETH需要を押し上げると考えているのか、そして現在のデータが何を示しているのか。本レポートではこの分野のトレジャリー企業、ブローカー、サービスプロバイダー、資産運用会社を調査し、彼らが公表した見解を引用した。
ETHトレジャリーの投資ロジック
トレジャリー企業は、資産がオンチェーンに移行するにつれてETHの需要も伸びると考えている。Bitmine会長のTom Leeは、イーサリアムをステーブルコインとトークン化資産の決済レイヤーと位置づける。以下のデータでこのロジックの3つの側面を検証する。
- ステーブルコイン:イーサリアム上のステーブルコイン供給量の増加は、より多くの支払われる手数料と保有されるETHに結びつくのか。
- トークン化株式と現実世界資産:発行体はどのチェーンを選び、その理由は何か。
- 流通チャネルとしてのL2:Robinhood ChainはGasの支払いにETHを使い、イーサリアムに決済する。
ステーブルコインの成長とイーサリアムのシェア
- ステーブルコインの供給量は2021年1月の270億ドルから現在は3,020億ドルへ増加し、2025年1月以降だけで約1,000億ドル増えた。
- イーサリアムとそのL2がそのうち51%のシェアを占める。
トークン化株式
- 2026年10月26日時点で、トークン化株式の規模は35.2億ドルに達し、30日間で11.6%増加、保有者は443万人となった。
- bStocks、Ondo、xStocksが複数のチェーンで先行しており、Robinhoodは190銘柄をカバーするトークン化商品を発行し、規模は1.47億ドルだ。
Robinhood Chain上のETH
- Robinhood Chainのブリッジには26.2万枚のETHが保管され、価値は約5.9億ドル。この数字は2026年7月1日の一般公開前は1,000枚未満で、9月16日には31.3万枚のピークに達した。
- Robinhood ChainはGasトークンとしてETHを使うため、オンチェーンで取引するすべてのユーザーがETHを保有する必要がある。これはアプリがETH需要を生み出す直接的な例だ。
Robinhood Chainのシーケンサー収入とイーサリアムのコスト
- 7月以来、ユーザーは約21,900枚のETHの手数料を支払った。
- 現在、イーサリアムが得ている価値は主にGasとして使われ、オンチェーンで保有されるETHに由来するもので、決済手数料ではない。長期的には、イーサリアムがL2からより大きな価値のシェアを獲得する可能性がある。
八、ETHの需要は伸びており、トレジャリーはどう活用できるのか
上記のデータは、イーサリアムとより広い暗号資産業界に現れている一連の前向きなトレンドを示している。では、ETHに賭けたい市場参加者にとって、最良の関与の方法は何か。
ほとんどのETHトレジャリーはまずステーキングを検討するが、利回りの低下に伴い、ステーキングだけが答えではなくなった。2022年以降、利回りは半減して2.2%になった。リステーキングはこの穴を埋めておらず、ETH建てではレンディングも流動性供給もステーキングを下回る。
このベンチマークを明確に上回る戦略はファーストロス・プロテクションとカバードコールだけだが、前者は実際のリスクを負う必要があり、後者は上昇時の収益を制限する。過去1年に複数のオンチェーンプロトコルで繰り返し起きたように、損失を負う第一線に立つことには確かにリスクがある。調査に応じたサービスプロバイダーも同じ見方をしている。彼らはいずれもステーキング利回りを「基礎ではあるが、それだけでは十分ではない」と表現した。
彼らはまた、内部のガバナンス上の問題が多くのETHトレジャリーによるオンチェーンでの資産活用を妨げていると指摘する。回答者はスマートコントラクトリスク、取締役会の承認、明確な基準の欠如を主な障壁として挙げた。ただ、多くは、より高い利回りよりも、取締役会や規制当局の安心を得ることの方が資産配分を進める助けになると述べている。
最大級の保有者の中には、そもそもETHをステーキングしていないところもある。ETFの投資ルール上の制約であったり、韓国など一部地域でステーキングが依然として規制のグレーゾーンにあることが理由かもしれない。2026年に入ってから脆弱性の悪用やハッキングが増え続けていることを考えれば、慎重な姿勢は十分に合理的だ。
ただし市場が成熟するにつれ、回答者や参加者は前向きなトレンドも見ている。FalconXのグローバルマーケット共同責任者Joshua LimとBitwiseのオンチェーンリサーチ責任者Kam Benbrikは、いずれもRWA分野の活動と注目度の高まりを強調した。
「2027年には、人々は資産をどうトークン化するかをあまり問わなくなり、トークン化した後に何ができるかにより注目するようになるだろう。資金調達や担保管理といった、伝統的にプライムブローカーが提供してきたサービスが、オンチェーンでより利用しやすくなる可能性がある。これは参入障壁を下げ、より広範な投資家がこれらのサービスを使えるようにする機会になる。」
Kam Benbrik、Bitwise オンチェーンリサーチ責任者
「年間を通じて、オンチェーンのRWA商品がパーペチュアル契約や現物市場で活動を伸ばしたことが重要なトレンドだった。2027年に向けて、私たちは顧客に対してこれらの市場へのサポートをさらに拡充していくことを期待している。」
Joshua Lim、FalconX グローバルマーケット共同責任者
イノベーションと商品の入手しやすさの向上は、暗号資産市場の参加者により広い投資余地を開いている。
dYdX Foundationの最高経営責任者Charles d'Haussy氏は次のように述べた。「適格カストディアンや伝統的金融機関の銀行がより多くのRWAを提供できるようになり、流通チャネルも改善したことで、私たちはトークン化資産への配分を大幅に増やすことができた。」
取締役会を安心させるために必要な規制の明確化とオンチェーンのセキュリティ改善には、なお時間がかかる。その一方で、2027年の重要な問いは、ETHを保有する投資ロジックが検証されるかどうかだ。トレジャリー企業は、資産がオンチェーンに移行するにつれてETHの需要も伸びると賭けている。そしてすでに次のことが見えている。
- ステーブルコインは異なる市場環境でも成長を続けている。
- 世界で最も人気のあるブローカーの一つであるRobinhoodが、イーサリアムL2を通じてオンチェーン株式を提供した。
- OnRe、USDai、Ethenaのトークン化ベーシストレードといった独自の商品は、オンチェーンの収益機会に対する市場の需要を示している。



